【ハケンの「リアル」大公開レポ】辛い饅頭、苦い饅頭、酸っぱい饅頭から選べ【派遣労働】

2011・1・8@東京 女は派遣を望んでいる? NO!オンナ・ハケンの乱 パート5
ハケンのリアル」 大公開!!の報告―女がハケンにNO!を言うとき―

年始早々の一月八日。お正月開けの間もないこの時期にこの集会を何故行ったか。
その理由の一つとして、人材派遣協会による派遣という働き方の「イメージ回復」(現実改善ではなく!)を図るアクションが活発化してきたことが挙げられる。
例えば、昨年11月30日に日本人材派遣協会朝日新聞に全面広告を出した。
「派遣だから、幸せになれた」「家庭と仕事の両立をしたい女性を支えています」という見出しが踊る。

日本人材派遣協会「jassa」の広告PDF版


そして「子育てとの両立ができた」「専門スキルを活かす仕事ができる」と語る女性たちを取り上げ、まさに「派遣を女性が望んでいる」とうたいあげたのだ。
さらに人材派遣協会は「ハケンのホント」というパンフレットを作成し、サイトにアップしたり無料配布をしたのだが、そう、これがあまりにあんまりないいかげんな内容・データなのである。
このため「派遣労働者ワーキンググループ」はこのパンフレットへの抗議の意味を込めて、で「ハケンのホント」ならぬ「ハケンのリアル」を編集し、しっかりと怒りを込めて集会の場で発表する、そして今までのオンナ・ハケンの乱を振り返りつつ、派遣法関係の取り組みと経過を振り返る今後の展望を考えていく、というのがこの集会の主旨となった。

まずいままでの派遣法関係の取り組みと経過については働く女性の全国センター代表の伊藤みどり氏が説明した。

このオンナ・ハケンの乱というアクションはそもそも、人材派遣協会が2008年8月(派遣村開設の前である)に人材派遣協会派遣社員に対しアンケートを行い「派遣をなくされては困る」と言う回答を導き出したことへの怒りから生まれたものである。
しかしその後派遣村が誕生し、派遣の不安定な働き方が注目を集めた結果、そのアンケート結果もどこへやらという事態になったが、しかし人材派遣協会が巻き返しのキーワードとして選んだのはやはり今回も「女性」だったのだ。
その怒りを込めて「ハケンのリアル」の解説は現役の派遣労働者である宇山洋美氏が行った。この「ハケンのリアル」は詳しくは下記にup(※)されているのでご参照いただければ幸いであるが、私たちは派遣を「選んでいる」ようで「選ばされている」ことがよくわかる資料である。
さらに会場から介護ヘルパーの派遣業務に勤めていた経験や、製造業派遣に勤める女性の声が上がった。フォローも薄いままに現場に放り出されるヘルパーや、また労基法社会保障について言及すると雇い止めにあう、という現状についても発言が飛び出した。
それにしても、女性たちの中で派遣という働き方はどう?と聞いたときにおそらく即座に「NO!」と言える人だけではない。
というのも会場からも質問として
「自分は中小企業に勤めていたが、派遣で働いている人は自分よりも給与が高かった」
「実際に正社員より時給が高い派遣はどうか?と言われたらそこを選ぶしかない」
という声が生まれた。
その声に対し、宇山氏は「あたしたちは、辛い饅頭か、苦い饅頭か、酸っぱい饅頭のなかから選ばされている状況なのだ」と説明した。


例えば当日資料で配布された「トヨタ派遣社員400人を正社員に、4月に一般職で」という記事。
トヨタ自動車は一般職にあたる「業務職」の採用を再開する。現在トヨタで働く事務系派遣社員の中から400人を正社員として採用する。経営環境の「先行きが不透明」などの理由から、労務コスト抑制のために2010年度は業務職の採用をゼロとしていたが、円滑に事務作業を進めるには業務職を増やす必要があると判断した。
 

トヨタ、派遣社員400人を正社員に 4月に一般職で
 事務系の派遣社員(10年9月時点で1700人)を対象に、昨年11月に募集を終えている。現在は選考過程に入っており、予定通り採用できれば4月から400人が新たに業務職として働く。
 派遣社員は契約上の業務内容が限られているため、広範囲な仕事をカバーするには業務職の正社員として働いてもらう必要があると判断した。
 トヨタはここ数年、毎年140〜230人程度の業務職を採用していたが、労務コストを極力抑えるために10年度は業務職の採用を見送っていた。
日本経済新聞 2011年1月5日

たしかに雇用を細切れにされるよりはマシかもしれない。
しかしこの「一般職」(トヨタでは業務職というらしい)とはなにか?
これこそが1985年に成立した男女雇用機会均等法後に生まれた男女平等の理念の裏をかく存在である。
男女で雇用形態を分けることが男女雇用機会均等法で禁止され、また法改正で一般職を女性のみ採用することは禁止されたものの、実質ほとんど女性が就いているのが「補助的」な作業を担うとみなされた「一般職」なのである。
当然男性の多くが就く「総合職」とは待遇が違うのは言うまでもない(逆に一般職につきたいという男性がいたとしたら彼らにとっても性差別的な制度ともいえる)。
そもそも1986年に派遣法ができたときは、それこそ派遣は限られた業種だけの雇用形態であった。あくまで臨時的かつ専門度の高い仕事だからこそ「時給は高く」していた。いわゆる一般職より派遣社員のほうが給与が高い、というのは派遣導入時にはごく当たり前であった。専門度が高く、かつ不安定であるからこその高時給なのだ。
しかし派遣社員の価値の下落はどんどんと高まっているし、クビを切られやすくなっている昨今、まさに派遣はハケンというカタカナの吹けば飛ぶような軽いものへとすり替わっていた。
「辛い饅頭か苦い饅頭か酸っぱい饅頭しかない・・・・」という事態はまさにそのような状況を示しているのだ。
女がハケンにNO!を言うときは、単純に派遣が嫌、というだけではもはやとどまらない。辛い饅頭、苦い饅頭、酸っぱい饅頭から選べと言われるその構造そのものにNO!を突きつけることだ。一般職の社員と派遣社員で給与で争わされる爛れた労働状況にNO!を突きつけることだ。派遣法をぶっつぶせ!と集会の
ラストで歌ったが、派遣にNO!を言うのは、派遣にとどまらず様々なかたちで女性の働き方が低く見積もられるその構造をぶっつぶせ!に繋がるものとしてのNO!なのだ。
だからNO!を言うのが難しい。だからこそ。
NO!を言いうるための場所を、時間を、制度を、賃金を、人とのつながりを・・・あたしたちは、要求、する。求めて、いる。
その要求もまたNO!であるということを、ここで伝えたい。
(報告者:栗田隆子


※「ハケンのリアル」は下記サイトからダウンロードできます。
http://files.acw2.org/hakenreal2.pdf


女は派遣を望んでいる?NO!